校長室より

(校長室より)  読書の意義(11/8)

11月4日付日本経済新聞に、文字・活字文化のありかたを考えるシンポジウム「スポーツが開くことばの世界」についての記事が掲載されました。10月3日に開催されたこのシンポジウムには、元陸上選手の為末大氏、作家の堂場瞬一氏、慶応義塾大学教授の今井むつみ氏がスポーツと読書の関係について話しています。その中で、読書の意義について、このように述べています。
今井氏「読書を介して、書いてあったことを覚えている必要はありません。昔読んだ本で、わくわくした感じは覚えている。知識が豊かになることが一番ではなくて、やはり過程が大事なのかなと。結果として一人ではできないような物の見方ができて世界が広がる。そこが大きいと思います。」
為末氏「僕は、高校、大学、会社まで陸上で入りました。ほかの教科はひどかったですが、国語はすごく好きでした。結局、考えることは全部読書でやったような気がするんです。(中略)大量の考えが書かれた本を読むことで多面的な主観を持つことができ、それが擬似的な客観になっているのではないでしょうか。」 
堂場氏「僕は共感できない人が出てくる本が好きです。それは自分が知らないものを教えてくれるから。嫌なやつだけどこういう見方もあるんだなだとか、何でこんな嫌なことをしたのだろうかと行動の心理を読むとか、【非共感】の部分を経験できるのが読書じゃないかと思います。」
読書は、スポーツ選手に限らず、各個人が持っている世界を広げる力があると思います。
そして読書は知識のインプットになりますが、この知識や感動をアウトプットする方法があります。それが「ビブリオバトル」です。10月26日に群馬県内の高校生によるビブリオバトル大会が、群馬県立図書館にて開催されました。1人5分の持ち時間で本を自由に紹介した後、来場者からの質疑に答え、来場者が一番読みたくなった本に投票するというものです。本校からも2名参加しました。2人とも明るい笑顔で選んだ本の魅力を、身ぶり手ぶりを交えて伝えることができました。あなたもこのビブリオバトルにチャレンジしませんか。

(校長室より)  人生の「正解」(10/31)

 10月25日付け朝日新聞の声(投稿欄)に、兵庫県に住む大学生21歳の文章が掲載されました。タイトルは「私は人生の【正解】がほしい」というものです。一部抜粋します。
「高校までは何に対しても【正解】がありました。教科書の問題は解答ページに、取るべき行動は校則に、他の細かいことはすべて先生が答えをくれました。勉強して、良い大学へ行って、素敵なパートナーを見つけることが、私にとって正しいことだと思っていました。(中略)
 しかし大学や社会に出ると突然、正解のない問題ばかりが降りかかってきます。何が正しいか、何が幸せか、自分で見極めろと言われます。(中略)
 幸せになることが人生の目標だとすれば、目標が何なのかわからない今、どこに向かって歩けばいいのですか。私は人生における【正解】が欲しいです。『こうすれば必ず幸せになれる』と誰かに言ってほしいです。」
 先日、本校で第39回邑楽・館林地区七校合同読書会が開催されました。本校をはじめ7校の生徒が集まり、テキスト:『君は月夜に光り輝く』(佐野徹夜著)、メインテーマ:もしも大事な人や愛する人が、余命幾許もないと宣告されたらどうするか、という内容で活発な議論が行われました。本の中から、人生にとって大切なことは何か、幸せとは何か、という問いの答えが見つかるかもしれません。多くの高校生に本を読んでほしいと思います。

(校長室より)  「女性学のススメ」(10/15)

 10月10日、社会学者で東京大学名誉教授の上野千鶴子氏による、上記タイトルの講演が館林市文化会館で開催されました。主催は館林女子高校で、高校生と一緒に講演を聴くことができました。その内容は、女性学とは何か、学問は何の役にたつのか、といった大変興味深いものでした。
 上野氏は「従来、男性が関心を払わず、学問として価値がないと思われてきた【女性】を研究の対象にしてきた。」と自らの履歴を話し、「女性学」は何の役にたつのかと言われながら、女性の経験の言語化と理論化に努めてきたことを説明しました。その成果として、性的な嫌がらせ・からかいが「セクハラ」、つきまといが「ストーカー」などとして認知されてきたことを挙げています。学問とは、今まで誰も研究しなかった分野や、誰も疑問にしていない新たな対象を見つけ、「何故?」という疑問を徹底的に考え抜いた上で発信していく必要がある、として学問の厳しさを述べました。

 また上野氏は今春、東京大学入学式の祝辞で学内での性差別を非難し、合わせて「受験勝者」の社会的責任を説明しています。その一部を紹介します。
「あなたたちはがんばれば報われる、と思ってここまで来たはずです。ですが、冒頭で不正入試に触れたとおり、がんばってもそれが公平に報われない社会があなたたちを待っています。そしてがんばったら報われるとあなたがたが思えることそのものが、あなたがたの努力の成果ではなく、環境のおかげだったことを忘れないようにしてください。」(中略)「あなたたちのがんばりを、どうぞ自分が勝ち抜くためだけに使わないでください。恵まれた環境と恵まれた能力とを、恵まれない人々を貶めるためにではなく、そういう人々を助けるために使ってください。」
 社会における女性をはじめとしたマイノリティに対する優しさの欠如を東大生に指摘しています。この祝辞はニュース等で話題になりました。社会的弱者やマイノリティに対する不当な差別をなくすために、教育関係者も差別の事実を認識した上で教育活動をしていく必要があります。

(校長室より)  「よくもそんなことができる」(10/4)

 9月23日、ニューヨークの国連本部で開催された気候行動サミットで、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥンベリさん(16歳)が演説しました。その内容を一部紹介します。
「よく、そんなことができますね。あなたたちは実体のない言葉で、私の夢を、私の子ども時代を奪ったのです。生態系全体が崩壊しています。私たちは、まさに大量絶滅の始まりにさしかかっているのです。そして私たちが語り合うのは、お金や、途絶えることのない経済成長のおとぎ話だけ。」(中略)
「私たちは決してあなたたちを許しません。今ここで、一線を引きます。世界は目を覚まし始めています。変化も訪れ始めています。たとえあなたたちが気に入ろうとなかろうと。」
 怒りに震えたこの5分間の演説は、このサミットに参加した人だけでなく、SNSをとおして、世界中の人々に伝わりました。16歳の彼女が、自分の意見を、世界にむけて発信したことに驚きを覚えました。誰もが自分の意見を発信することができますが、その内容が多くの人に伝わったという点で、大きなことを成し遂げたと思います。彼女の意見に対して、中身がない、勉強不足だ、という反論もありますが、彼女の意見に対して、大人は真摯に受け止めて議論しなければなりません。彼女はまだ成長途中です。彼女の将来が楽しみです。

 『同調圧力』望月衣塑子他著(角川新書)を読みました。この国は同調圧力が強い、それが政府やマスコミの中に存在している、という内容です。この本のあとがきに、こんな言葉がのっています。「他人の期待に沿うための人生ではなく、自分がやりたいことをやっておけばよかった。」 自分の意見をもつことは重要です。他人や周囲の考え方に振り回されるばかりでは、自分の人生を主体的に生きることは困難です。自分のやりたいことは何なのか、自分の意見は何なのか、しっかり考えてほしいと思います。

(校長室より)  「授業動画」(9/27)

先日、「Find!アクティブラーナー」という、webページのことを書きました。このページでは会員になると2000以上の授業、講義、講演をみることができます。この動画は、保護者や教員等教育に関係する社会人用のものと考えられますが、児童生徒用授業動画はさらに進んでいます。
9月27付読売新聞に、「授業動画で受験勉強」という記事が掲載されました。記事によれば、学校外の勉強などで、スマートフォンのアプリやインターネットを利用した民間の学習サービスが広がってきているとのことです。都合のいい時間に授業の配信動画を繰り返し見たり、講師にオンラインで遠隔指導を受けたり、スタイルは様々です。記事では徳島県の私立高校に通っていた高校生が、今春早稲田大学政治経済学部に合格した事例が掲載されているので紹介します。
「受験勉強で頼りにしたのは、教育アプリの【スタディサプリ】だ。月額980円(税別)で5教科18科目の授業動画計約4万本(1本15分程度)が見放題になる。(中略)現代文や英語、日本史の授業動画を繰り返し見ることで「基礎固め」ができ、高校で受ける模試で自分の課題を見つけた。『わからないところは何度も授業動画で確認した。有名講師による授業はポイントが押さえられ、理解しやすかった。』(中略)この教育アプリは、大学受験生のほか、小中学生や社会人向けの授業動画もあり、全体の有料会員(昨年度)は約84万人に上る。」

予備校の衛星中継による授業や授業動画は以前からありましたが、このように自分の学力や目的に合わせて、様々な授業動画がみられるこのサービスはこれからも増加していくと考えられます。個々の進度に応じた学習を効率的にできる利点はありますが、児童生徒の自己管理能力も問われることになります。
こうした個々に合わせた講義形式の授業を児童生徒がみられるようになると、学校の授業はどうしたらよいでしょうか。答えはすでにでています。知識をインプットするだけではなく、その知識をどう使うのか、どのようにアウトプットするのか、書いたり話したり議論したり、能動的な活動を取り入れて、講義だけでは得られない思考力・判断力・表現力、あるいは主体性をもって、多様な人々と協働できる能力を身につけることができる、そんな授業が必要となります。