校長室より

(校長室より)  「餞(はなむけ)の言葉」(3/4)

 3月2日、本校にて、第107回卒業証書授与式が挙行されました。新型コロナウイルスの全国的流行による感染拡大防止のため、例年より規模を縮小し、保護者は各家庭1名、1、2年生は不参加での実施となりましたが、本校を巣立つ149名の生徒たちを、心を込めて見送ることができました。式辞にて餞(はなむけ)の言葉を3つほど述べたのでそれを紹介します。
 「一つ目は、学び続けてほしい、ということです。『学ぶ』というのは、希望する学校や企業に合格するためだけに行われるものではありません。自分を成長させ、他人を幸せにするためにするものです。愚痴やいいわけをいう人は成長できません。自分のまわりの人や社会を幸せにするために、自分の意志で新しいことを吸収して、自分を成長させてください。
 二つ目は、夢を持ち続けてほしい、ということです。みなさんにとって魅力的な大人とはどんな大人でしょうか。子どもたちは、夢にむかって走り続ける、そんな大人にあこがれます。それはプロスポーツ選手やオリンピック選手だけではありません。『大人になっても夢を追い続ける』ということを、子どもたちに見せてあげられる、そんな大人になってください。
 三つ目は、自分自身の人生の正解をみつけてほしい、ということです。今までの学習では、問題に対して解答が用意されていました。しかし社会にでると、正解のない問題ばかりがふりかかってきます。何が正しいか、何が幸せか、自分で考えなくてはなりません。こうすれば幸せになれる、という解答がないのです。自分自身の人生の正解をみつけて、幸せになってほしいと願っています。」
 卒業生のみなさん、保護者の皆様、ご卒業おめでとうございます。

(校長室より)  「違う」から友達になる(2/7)

 2月3日付上毛新聞のU22投稿欄に、ヴー・フォン・タオ(22才)さんの上記タイトルの文章が掲載されています。彼は2016年~日本に留学し、大学に通っています。日本で異文化に触れることは楽しいのでは、と思う人がいるかもしれませんが、彼の場合は出会った人の考え方、価値観をつい真似してしまい、自分の価値観を忘れてしまいそうになることもあったそうです。そして日本人と同じように生きて、ストレスがたまり、それが苦痛になりました。彼は、このように述べています。
「だから、ある時、その考えを捨て、自分なりに生きることにした。すると、だんだん自信が持てるようになり、多くの人の前でも自分の考えを伝えるようになった。自分を出すことで、友達が少なくなってしまうかもしれない、と不安だったが、そうではなかった。自分なりに生きることで、本当の友達ができたと思っている。」
 先日、フレディみか子氏の作品、「僕はイエローでホワイトでちょっとブルー」を読みました。彼女の中学生の息子さんを主人公にして、英国南部のブライトンという町の、多様な人種や格差のある生徒が集まる中学校での生活を描いたものです。様々な価値観をもつ生徒の中で、息子さんが孤軍奮闘して成長する姿が描かれています。様々な人種や多様な価値観のある人々と、学校生活をともにするのは、決して楽なことではありませんが、彼は自らの意志でその生活に飛び込んでいきます。
 これからの時代は、多様な人々と協働できる能力が必要です。子どもたちは、ヴー・フォン・タオさんや、ブライトンで頑張っている中学生のように、文化や価値観の違う人々と出会い、自分を成長させてほしいと思います。

(校長室より)  「英語能力指数」(1/22)

 来年度予定されている大学入学共通テストで、英語の民間試験活用が、見送られました。しかし英語の「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能をバランスよく勉強することが否定されたわけではありません。これら4技能を総合的に学ぶことは、これからの時代に必要とされています。
昨年12月18日付読売新聞に「英語能力指数、日本53位」というタイトルの記事が掲載されました。世界で留学などの教育事業を展開する「EFエデュケーション・ファースト」が、2019年の英語能力ランキングを発表しました。英語を母国語としない100カ国・地域のうち、日本は前年より4つ順位を下げて53位となったそうです。1位オランダ、2位スウェーデン、3位ノルウェー、4位デンマークとヨーロッパ諸国が上位に並びますが、5位シンガポール、6位南アフリカと続き、37位韓国、40位中国です。1位~14位は「非常に高い」、15位~29位は「高い」、30位~46位は「標準的」という評価になり、日本は47位以下で「低い」という評価になります。評価対象国は、昨年に比べ12カ国増加し、受験者数も100万人増え、約230万人になったそうです。
 日本の英語能力レベルをあげるにはどうすればいいか。1月14日付朝日新聞で、英国語学評価テスト学会創設者のバリー・オサリヴァン氏はこのように述べています。
「中国では国が開発した4技能テストを毎年150万人が受けており、AI採点などの技術が発達しています。こうした仕組みや研究を改良すれば、少ないコストで、2024年度から(国際基準の統一テストを)実施できるでしょう。他国の例などについて知見があるので、求められれば新制度作りに喜んで協力します。」
 今年度のセンター試験は、55万人7699人が受験しました。同様に英語の4技能テストも、センター試験と同様に、全国の高校生が受験できるようなものにしてほしいと思います。

(校長室より)教育格差という言葉がなくなる制度設計を(1/10)

 新年、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
早速ですが、昨年12月24日付朝日新聞にこのような記事が掲載されました。「来年度から大学など高等教育の学費負担を減らす文部科学省の新制度で、従来なら支援を受けられたのに対象外となる新入生が出ることについて、萩生田文科相は23日、【先輩はこういう家庭環境でこうだったのに、俺はという不満はあるかもしれない】とした上で、そうした学生が出ることに対し【制度の端境期なので、ぜひご理解を】などと述べた。」
この発言に対し、池上彰氏はこのように批判しています。「これは由々しきことです。制度を変えることで支援を受けられない新入生が出ることは、制度設計の欠陥というべきでしょう。」
 教育格差という言葉があります。生まれ育った環境により受けることのできる教育に格差が生まれることを指します。このような格差のない国が存在します。それはフィンランドです。フィンランドでは幼稚園から大学まで学費が無料で、貧困の中からでも大学進学のチャンスがあり、首相にもなれます。
 12月24日付毎日新聞夕刊にて、小国綾子氏がフィンランドの女性首相(34歳)をとりあげています。彼女は幼い頃に父親のアルコール依存が原因で両親が離婚、貧困を経験しました。その後、母親とその女性パートナーに育てられました。中学までの成績は振るわなかったそうですが、高校や自治体の運営する施設で自分の居場所や仲間を見つけ、親族の中で初めて大学進学を果たしました。彼女は「私を救ってくれたのは福祉制度と学校の先生」と述べています。
 日本も、教育格差、という言葉がなくなるような制度設計をしてほしいと思います。

(校長室より)  「ユーチューバー」(12/26)

 「ユーチューバー」という職業?が子どもたちの間で人気職業ランキング上位にあがっています。有名なユーチューバーになると、その広告料で相当の収入が得られるようです。さまざまなジャンルのユーチューバーが存在しますが、12月24日付毎日新聞に、教員とも塾講師とも異なる“次世代の教育者”として注目されている「教育ユーチューバー」、葉一(はいち)さんが紹介されています。葉一さんは、ユーチューブで配信する授業動画がわかりやすいとして中高生を中心に多くの登録者(約76万人)を得ています。動画数は3206本(12/25現在)、開始から7年で動画の累計再生回数は2億回を突破しています。葉一さんは、記者の質問にこのように解答しています。
 「自分が想定しているのは基礎を定着させたい子。それは、集中や継続が苦手だった中高生時代の自分だったり、塾でつまずいた子どもだったり、というイメージです。授業で【わかる】という成功体験を得ることが、【やる気】の第一歩だと思います。」「子どもの生活の中で大部分を占める時間は学校の授業です。それなのに【わからない】と思いながら過ごすのは苦痛です。(中略)【前はわからなかった問題が解けた】のも【授業中に手をあげられた】のも成功体験だと思います。【勉強を頑張って良かった】という小さな成功体験を積み重ねることが重要です。」葉一氏の動画授業は、15分以内でまとめられていて、とてもわかりやすく丁寧に作られています。
 このような授業動画は、大手教育系企業も有料で発信しています。ある講座ガイドに登録すると、小中学校の復習から、難関大学受験対策まで、5教科18科目、1万5千本の授業動画をみることができます。私も高校の授業や、英検対策講座の授業を視聴してみましたが、とてもわかりやすく作られていて、予備校等で人気を得ている講師の実力をみることができました。苦手科目を学び直したり、高校受験や大学受験の勉強に利用したり、スマホでどこでも気軽に学習ができたり、という点でこのような授業動画は今後とも増加していくと考えられます。
このような授業動画の流行に対し、学校教育はどうあるべきか、今一度立ち止まって考える必要があります。

(校長室より)  「エドテック」(12/18)

 12月16日付日本経済新聞に、【「エドテック」花盛り】、という記事が掲載されています。「エドテック」とは教育(education)とテクノロジーを組み合わせた造語です。テクノロジーの力で教育環境が変わっていく動き・トレンドをさします。記事によれば、教育現場をテクノロジーで変えるアイデアを、大学生や高校生といった「学ぶ側」から生みだそうとする動きがあるようです。
11月4日、東京都内で開かれたエドテックの国際イベントで、マラソンのように長時間続けてアイデアを練る「アイデアソン」に高校生が挑みました。
グーグル賞を受賞したのは、政府が導入を進める「アクティブ・ラーニング」(能動的な学習)が実際の授業では定着していない、という問題意識で挑んだチームです。彼らは授業を活性化するため、AI(人工知能)を使った即興劇を授業にとりいれるアイデアを披露しました。
 アマゾン賞は「日本の高校生は学力が高いのに大学生になると低下する」ことを課題に掲げたチームが受賞しました。その解決策として「AIのサポートを受けながら生徒が中心となり授業を行い、自らが考え主体的に行動できる力をやしなう」ことを主張しました。
 経済産業省や文部科学省が後援するこの国際イベントは、今年で3回目となり参加者は3000人を超えたとのことです。
 教師から一方向の講義をだまって受け、たとえわからなくても他者と話すことなく授業が終わるまで座っている、という授業を高校生は求めていません。「主体的・対話的で深い学び」「アクティブ・ラーニングの視点にたった授業の実現」については、文部科学省だけでなく、多くの高校生も求めていることがわかります。

(校長室より)  「読解力」15位(12/10)

 12月4日付朝日新聞によれば、世界の15歳を対象に3年ごとに3分野の力を調べる学習到達度調査(PISA)で、日本は2018年度の「読解力」の平均点が落ち、順位も前回の8位から15位に下がりました。コンピューターを使い、ネット上の多様な文章を読み解く力や、根拠を示して考えをまとめる自由記述形式が弱い、思考力や表現力が伸び悩んでいる、と指摘しています。調査方法が前回、紙からコンピューターを使う形となり、測る力が今回、ブログや電子メールなどを対象とした「デジタル読解力」へと変わった影響も大きいとの指摘もありました。また大量の情報から必要なものを選び出したり、情報を疑ってみたり、自分の考えを表現したりする力も不足していると述べています。
 2020年度に始まる大学入学共通テストで導入予定の、国語と数学での記述式問題について、実施を延期する方向で調整に入ったとの記事が、各新聞で報道されています。採点者の質の確保や自己採点の不一致率の高さなどが課題となっているようです。記述式の導入は「生徒の能動的な学習をより重視した授業への改善が進む」「より主体的な思考力・判断力の発揮が期待できる」などが期待されていましたが、指摘されている問題がクリアできなければ、延期となるようです。
 大学入学共通テストにおける記述式問題の導入が仮に延期されても、自分の考えを表現する記述力や「デジタル読解力」はこれからの時代に必要な能力です。朝日新聞の記者が、数年前にPISAの担当者に言われたことを最後に紹介します。
 「学校で優等生だったのに就職後はさえない人がいる。それは何故なのか。」「細かな知識はネットで得られる。知識よりも知恵を出して事態を突破する力が求められています。」(12月4日付天声人語より)

(校長室より)  英語民間試験見送り(12/5)

 大学入試センター試験に代わり、2020年度に始まる予定の大学入学共通テストにおいて、地域や所得による不公平が生じる可能性を問題視された英語民間試験の導入が延期となりました。11月27日付毎日新聞で、関西学院大准教授寺沢拓敬氏はこのように述べています。
 「文科相は検討会議を設け、今後1年間で4技能をどう評価するか検討するといいます。しかしそもそも【学習指導要領が4技能を育てようとしているのだから、それを入試で評価せよ】という考え方は正しいのでしょうか。まずは高校の授業で適切に評価すべきで、【話す力】【書く力】が入試で測りにくいなら、調査書で見てもよい。いきなり入試につなげるのはジャンプしすぎです。」
 寺沢氏は、英語力を伸ばす処方箋として、以下のことを指摘しています。①クラスの規模を小さくする。②4技能指導になじみのない教師に研修機会や授業準備の時間を与える。③教員養成の段階で指導力を育てる。いずれもお金と時間がかかる政策ですが、高校の授業においても、時間をかけて少しずつ改善をしていく必要があります。
 文部科学省は公立中高の英語教育に関する調査を公表しています。2017年度の中学3年で英検3級以上の英語力を持つ生徒は40.7%、高校3年で準2級以上の生徒は39.3%となっています。両方とも目標の50%には届いていません。何故子供たちは英語の4技能を学ぶ必要があるのでしょうか。それは大学入試を利用するしないに関わらず、グローバルなこの社会で活躍するために、多様な人々と協働できる能力を身につけるために、必要と思われる技能だからです。

(校長室より)  武井壮(11/25)

 百獣の王、武井壮氏に注目しています。武井氏はTVタレントとして活躍していますが、その経歴や発言は、様々なメディアにとりあげられ、誰もが武井氏を認め、そして他の人に勇気を与える存在になっています。
武井氏は、中学で野球、高校でボクシングに取り組んでいましたが、大学時代に短距離走を始め、大学3年次に十種競技に転向します。大学卒業後、第81回日本陸上競技選手権大会十種競技において優勝します。100m走ベスト記録の10秒54は、2015年まで十種競技・100mの日本最高記録でした。
 卒業後は陸上をやめ、プロゴルファーやプロ野球選手を目指しましたが、2003年(30歳)のころから芸能活動を始めました。当初はタレントとしてなかなか売れず、2004年から2013年まで家なし生活をしていました。武井氏は、売れているタレントや芸人さんは何故面白く、たくさんの仕事に恵まれているのかを、その話術や生活態度等を中心に一生懸命に研究したそうです。

 11月20日付毎日新聞の赤坂電視台の欄に、武井壮氏の発言が掲載されていますので一部紹介します。
「毎日3時間、自分自身をアップデートしています。体力トレーニング1時間、知らないことの勉強1時間、楽器やゲームなど未経験の技術習得1時間が日課で、忙しくても必ず続けています。その理由は、昨日テレビに写った自分はもう消費された自分。それと同じ体力と知識と能力のまま、翌日カメラの前に立つのが嫌なんです。少しでも成長した自分をお見せすることが、視聴者の皆さん、スタッフ、番組関係者など、今の僕に大きな価値を与えてくれている方々への恩返しだと思っています。」
 武井氏は、SNSでこんなことも言っています。
「オレは鍛えるのが好きなんじゃなくて成長するのが好きなんだ。その手段として鍛えるってのがひとつあるからやる。それ以外も成長できるならなんでもやってやる。成長は1番の娯楽だ。」「誰かに楽しんでもらわなきゃ価値がないと気付いてから少しずつ成長できたと思う。」
 武井氏の言葉は、多くの人を勇気づけます。

(校長室より)  ヨーヨーで世界つかむ(11/20)

 11月18日付日本経済新聞の「先輩に聞く」欄に、ヨーヨーパフォーマーのBLACKさんが紹介されました。BLACKさんは、世界的サーカス劇団「シルク・ドゥ・ソレイユ」への出演を志し、会社員の職をなげうって日本を飛び出しました。ヨーヨーとカタカナ英語を武器に夢を実現し、その活躍ぶりは2020年から始まる小学生向け英語教科書で「世界に活躍する日本人」として紹介されています。
 BLACKさんは、青山学院大学在学中にヨーヨーの世界チャンピオンになります。大学卒業後、システムエンジニアとして就職しましたが、毎日終電で帰るような仕事で、肉体的にも精神的にもつらい日々が続いたそうです。なんとかこの状態から抜け出し、自分に自信を与えてくれた、ヨーヨーによるパフォーマーへの夢を捨てきれず退社し、シルク・ドゥ・ソレイユのオーディションを受けます。26歳からバレエを始め、体を滑らかに動かす技術を習得することで、芸術性の向上に努め、無事にオーディションに合格します。
 BLACKさんは、中学生の時にヨーヨーと出会い、練習すれば上達するということがとても嬉しく、学校が終わるとすぐに家に帰り、壁を傷だらけにして1日6~8時間練習に没頭したそうです。BLACKさんは夢中になれるものを中学生の時に発見し、紆余曲折はありながらも、それを現在の仕事にすることに成功しました。

 この記事は最後にこのように述べています。
「チャンスはたまにしか訪れず、待っている時間のほうが断然長い。人生が前に進まず止まってしまっているように感じることもある。それでも自分は何に幸せを感じるか。どんな日々を過ごしたいのか、ということを明確にイメージできれば、周りから愚かな選択だと言われようとも、人生の選択に迷わないはずだ。」